カテゴリー「就活戯曲「夢への内定」」の39件の記事

就活戯曲「夢への内定」目次

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Junichi_3

Mai   Misato

Morinaka Takekawa

登場人物・あらすじ

◆第1話「モラトリアム終了

◆第2話「就活の現実って?」

◆第3話「謎の経営者

◆第4話「会計的視点

◆第5話「終わらない自問自答

◆第6話「職業観

◆第7話「やりたいこと

◆第8話「ゴーセツ

◆第9話「冷たい情報、熱い情報

◆第10話「ギャップ

◆第11話「街角の達人

◆第12話「何を始め、何を掴むのか

◆第13話「勝負を決める心構え

◆第14話「関連付け

◆第15話「当たり前のレベル

◆第16話「すれ違い

◆第17話「異文化コミュニケーション

◆第18話「見えない壁

◆第19話「社会とは何か

◆第20話「壁のかけら

◆第21話「壁の正体

◆第22話「共感

◆第23話「縮まらない距離

◆第24話「アリとクモ

◆第25話「勝者の着眼点

◆第26話「ガイダンス1848

◆第27話「学生コンサルタント

◆第28話「面接ごっこ

◆第29話「心と言葉

◆第30話「墜落

◆第31話「コンサルティング面接

◆第32話「無意識の成長

◆第33話「深い溝

◆第34話「女の友情

◆第35話~最終回~「無私と調和

作者あとがき

(1)作者プロフィール・略歴・実績

(2)寄稿・講演・翻訳・通訳・編著・自著の実績

(3)企業取材サークルFUNでの実績

読者の皆様から頂いた質問について

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■登場人物・あらすじ

■登場人物

麻衣 : 素直で真面目な女子大生

美里 : 麻衣の親友。

絵里 : 麻衣と美里の友達。

亘 : 麻衣と美里の先輩。

駒田 : 就職課の課長

康司 : 町の社会人

純一 : 経営者。サークル顧問。

森中 : 筑前大学4年生。

竹川 : 筑前大学4年生。

■あらすじ 学生が就職活動で味わう葛藤、苦悩、発見、感動を再現したリアル戯曲。

学生たちは、苦悩・挫折・迷いを経て、どう夢を描き、成功へと向かっていくのか…?

◆この戯曲について

作者:小島尚貴(経営者・作家)

作者ブログ:『職の精神史

作者提携事業所:『mai place

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◆第1話「モラトリアム終了」

大学三年の夏休みは、それまで過ごしてきた夏休みとは終わり方が違う。

それは、ここで終わるのが、夏休みだけじゃないから。

本当に終わるのは、「世の中の現実」を考えなくても過ごせた日々。

ああ、ついにやって来た。

就職活動――。

(舞台は九州学院大学。授業が終わり、学生たちが帰った後の教室から、物語は始まる。)

美里 よっ!麻衣。久しぶり。どうだった、夏休み?

麻衣 ああ、美里。そうだね、楽しかったよ。短期留学にも行ったし。

美里 そうだったね。その話、今度ゆっくり聞かせてよ。で、あんた、今日行くの?

麻衣 行くって、どこに?

美里 どこって、説明会よ。就職課が夕方からやる、三年生向けの就職説明会。

麻衣 …別に、予定は入れてなかったけど。美里は行くの?

美里 もちろんじゃない。あたし、就職がすっごく楽しみなんだ。納得いく内定のためには、一足早くスタートダッシュかけなきゃ。あんたも行こうよ。

麻衣 そうね。じゃあ、一緒に行こう。

美里 じゃあ、四時に自販機前で!

(麻衣の回想)

麻衣  就活か…とうとうそんな時期になったんだ。

私はまだ、業界とか仕事のことは何も知らないけど、美里のような友達がいれば、頑張っていけそう。

どうせ考えなきゃいけないことだし、今日は何かいい情報があったらいいな。)

(説明会場付近。学生たちが集まってくる)

絵里 よっ!

麻衣 …なんだ、絵里か。

絵里 あんたも来てたんだ。

麻衣 美里に教えてもらったの。

絵里 あんた、志望業界決まってんの?

麻衣 いや、まだ…。

絵里 あたしは絶対、JTBかCAって決めてるんだ。

麻衣 すごいね、もう決めてるなんて。

絵里 夏休みはネイル講座もマナー講座も受けたし、絶対受かってやるんだから。

麻衣 へぇ。

絵里 …ほら、そろそろ始まるよ。

(ステージに就職課職員が登壇。説明会が始まる。)

駒田 三年生の諸君。早速あいさつといきたいところだが、まず諸君に言いたいことは、毎年同じことだ。

「今すぐ夏休み気分を捨てろ!」。

(学生たち、ざわめく。)

…君たちは就活をよほど甘く見ているようだな。顔を見ていれば、君たちの甘さがよく分かる。

麻衣 誰なの、あの人?

美里 就職課の課長よ。先輩が「あいつの話で毎年みんな、暗くなる」って言ってたけど、ホントにイヤな話し方ね。

駒田 君たちは九州学院の学生ということで、九州や博多では、そこそこ知られているかもしれん。

だがな、それは所詮このド田舎、九州での話だ。君たちの学校など、東京に行けば誰も知らんぞ。

私は長年東京に滞在して、それを肌で感じてきた。

絵里 バッカじゃないの!あんたみたいなのが駐在してるからじゃない。余計な話はさっさとやめて、早くJTBの話をしてよ。

駒田 就職では、君たちの総合力が問われる。

マナー、外見、あいさつ、仕草はもとより、時事関連知識、筆記試験、自己管理能力、面接でのアピール力、コミュニケーションのセンス、文章力、語学力、専攻科目に対する理解力…。

駒田 君たちに聞きたい。この中で、日経を読んでいる学生は何人いる?

(ポツポツと手が挙がる)

駒田 なんだ、たったこれだけか。さすが九州。東京の一年生並みだな。よし、じゃあ、そこの君。今日の日経平均はいくらだった?

学生1 え…一万四千円くらいだったと思います。

駒田 みんな!聞いたか!「一万四千円」だとよ。「くらい」だとよ。

(学生1、うつむく)

駒田 正しくは「一万四千二十五円」だ。

原油先物相場が一旦落ち着きを取り戻し、投機資金の流入が一段落したことで、バーナンキ議長が「当面、株式市場は安定するだろう」と声明を発したのがきっかけだな。

じゃあ、そこの君!バーナンキはどこの議長だ?

学生2 えっと、確か連邦金融安定…。

駒田 何だと?

学生2 じゃなくて、連邦準備制度…。

駒田 君、本当に大学生か?学生なら英語で答えろよ、英語で!連邦準備制度理事会、すなわちFederal Reserve Board、FRBだな。

君は就活じゃなくて、大学入試くらいからやり直したまえ。

(学生2、うつむく)

絵里 ほんと、嫌味なヤツ。

駒田 いちいち他の学生にまで聞いたら、説明に時間がかかるから、今日はこれくらいにしといてやるが、どうせみんな同じ程度だろう。毎年、九州の学生は全く進歩してないな。

くれぐれも念を押しておくが、就職に甘い夢など持たんことだな。仕事は勉強や遊びと違って、生き馬の目を抜くビジネス社会の出来事だ。

諸君は格差社会の世の中にこれから突入していくわけだが、さっきの質問で、諸君全員が「下流社会の人間」ということがよく分かっただろう。

(麻衣、鋭くステージを見つめる)

駒田 要するに、諸君は「就職以前」ということだ。ビジネスは金が飛び交う非情な世界だ。君らじゃ到底、太刀打ちできんだろう。だが、頑張ればフリーターを回避することくらいは可能だ。

失業式を迎えたくなかったら、今日帰ってすぐリクナビに登録し、日経新聞の購読を申し込むことだな。

特に文学部!諸君の就職はヒジョーに厳しい!それから、資格がない奴!TOEICが六〇〇点以下の奴!諸君には補欠席さえ用意されていない。それが社会の現実だ。

悔しかったら、さっさと夏休み気分を捨てることだな。じゃあ、今日の説明会はこれで終わりだ。

(麻衣、絵里、美里、揃って駒田を見つめる)

(説明会終了。麻衣と美里、町の喫茶店へ)

美里 ごめんね、せっかく誘ったのに、あんな話だったなんて。前もって調べとけばよかった。

麻衣 いいのよ、あれはあれで、勉強になる話だったし。

美里 勉強になった?どこがなのよ?

麻衣 確かに私たちは何も知らない。夏休みが終わるのも嫌。こんな気持ちじゃ就職は厳しいってことは納得できた、ってこと。

美里 あんた、ホントにお人好しね。あたしはもっと、やる気が出る話を期待してたのに。

麻衣 そうね。やる気がない人は、確かに多いよね。振り返れば、私たちが入学した時から、先輩たちはいつも、この時期を迎えると…。

「やりたいことが見つからない」

「何から始めていいか分からない」

「できるだけ学生でいたい」

「仕事なんてしたくない」

「本当に内定できるんだろうか」

「業界や企業のことなんて、全然知らない」

…って言ってた。

美里 あたし、人材業界に興味があるんだ。人と仕事の出会い方がもっと良くなれば、日本を変えられそうだって感じるの。

麻衣 私も、そういう高い理想を持って働きたいな。

美里 麻衣はどの業界を目指してるの?

麻衣 私は…業界よりも、尊敬できる人の会社で働きたいってことくらいしか考えてないよ。それか、心から助けたいと願う人のために役に立ちたい。

美里 そういう気持ち、大事だよね。駒田が言う時事知識や就活対策も確かに大事だとは思うけど、あたしは、あんな冷たい気持ちで自分の未来とは向き合いたくないな。

麻衣 そうね。少なくとも、尊敬できる大人の姿とは思えなかった。でも、私たちの甘さに気付くにはいいきっかけになったよ。美里、ありがとう。

美里 そう言ってもらえて助かったよ。…あ、あの人。

麻衣 わ、亘先輩!

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◆第2話「就活の現実って?」

麻衣 先輩、久しぶりですね。

亘 ああ、いたのか。こんな所で会うなんて、奇遇だな。

麻衣 先輩、スーツ似合ってますよ。あと半年もすれば社会人なんですよね。

亘 …。

美里 今日は会社のイベントでもあったんですか?

亘 オレ…実はまだ、内定もらってないんだ。

麻衣 えっ?

亘 ここなら誰もいないと思って来たのに。まぁ、おまえたちで助かったよ。最近、同級生の顔を見るとイライラするからな。

美里 すみません、私、とっくに就活は終わったとばかり…。

亘 いいんだ、気にするな。ふぅ…。

亘 それより、おまえたち、どうしてここにいるんだ?

麻衣 今日は、就職課の説明会に行ってきたんです。

美里 あんまり面白くなかったんですけどね。

亘 あぁ、駒田のオッサンの話か。あのオッサンの話に賛成するわけじゃないけど、確かに就活は厳しいよな。オレだってサボったつもりはないのに、もう…三十社落ちたよ。

美里 三十…。

亘 間違いなく多い方だろうな。というより、ここまで落ち続ける奴もいないよな。

麻衣 先輩、確か商社に入りたいって言ってましたよね。

亘 …おまえ、よく覚えてるな。そう言えば、去年の今頃は、そんなこと言ってたっけ。

美里 何言ってるんですか。あたしたちをあんなに励ましてくれたのに。

亘 あの頃は何も知らなかったんだよ、何もな。ま、忘れてくれ。

麻衣 そんな…。

(喫茶店のマスター、デザートを運んでくる)

マスター はい、サービス。

美里 あ、ありがとうございます!

マスター 何だい、君たち、就職の話かい?

麻衣 ええ。まだ何もやってないんですけど。

マスター 僕らの頃は高度成長期で自由気ままにやってたけど、君たちが生きる時代は国内、海外に競争相手が増えて、大変だね。

美里 マスターも就職では悩んだんですか?

マスター そうだね…。三十年近く前だからよく覚えてないけど、僕は自分の店を持つことに憧れてたから、あんまり会社のことは真剣に考えてなかったよ。

美里 最初は何の仕事をしたんですか?

マスター えっと…食品の商社だよ。商社なんて聞くと、今じゃカッコ良さそうに聞こえるが、僕らの頃は「横流し屋」みたいなもので、飲食店にビールや食材を卸したね。

それで喫茶店に興味が出て、四十五歳で脱サラしたんだ。

美里 先輩、商社志望なんです。何かいい情報はありませんか?

亘 おい、美里、もういいんだ。

マスター 君、就職がうまくいってないのかい?

亘 …。

麻衣 先輩、ごめんなさい。詳しい事情も知らないで。

亘 オレだって、本当はオレだって、四年生の夏でこうなってるはずじゃなかったのに…。

マスター 君、将来やりたいことはないのかい?

亘 ないことはないんですが、というか、なかったんですが、今はもう、人に夢を語る自信がありません。

マスター 面接でたくさん失敗したの?

亘 面接だけじゃなく、僕の就活そのものが、いや、大学生活そのものが失敗だったんです。

マスター 僕には詳しいことは分からんが、君たちの大学には就職課があるだろう。そこに行ってみたらどうだい?

美里 就職課って、あそこの人たちが学生の気持ちなんて分かるのかしら?

麻衣 別に駒田課長のような人ばかりじゃないだろうし、私たちが就職の話を聞くってことにして、行ってみない?

亘 おい、おまえたち…。

麻衣 先輩、行ってみましょうよ。

マスター こういう時こそ行動だよ。一人じゃ悩みが深まるばかりだし、何かのきっかけにもなるだろうから、行ってみたらどうだい?

亘 はい…じゃあ、行ってみます。どうもありがとうございます。

(三人、喫茶店を出る)

(三人、就職課へ)

美里 こんにちは!

職員 君たちは三年生か?就職課はあと十分くらいで閉まるよ。

美里 ちょっと、相談したいことがあるんですけど。

麻衣 十分でも構いません。

職員 そうは言われても、担当の者が…。あっ、そうだ、今日は課長が残っているから、課長に聞いてみるかい?

美里 課長っていうと…(二人、目を合わせる)

職員 課長ぉ~!学生が就職相談に来てますよ。

駒田 (奥から)了解!じゃあ、相談室に通しててくれ。

職員 じゃ、あっちで待ってて。お茶出せなくてごめんね。

(相談室に三人座る。駒田入室)

駒田 こんな時間に相談に来るなんて、就職課は六時までだから、覚えておきなさい。

麻衣 はい、突然伺ってすみません。

駒田 で、何だい、相談ってのは。

美里 実は…私たちじゃなくて、こちらの先輩のことなんですけど。

亘 …。

駒田 その先輩が相談希望なら、自分で相談内容を話したらどうだ。

亘 四年のこの時期で内定ゼロって、やっぱり、ヤバイんですか?

駒田 ヤバイ?…その言葉遣いがヤバイなぁ。君、面接何社受けた?

亘 三十社ほどです。

駒田 三十?で、何社受かった?最終には何社行った?

亘 最終面接まで行ったのは四社で、全部落ちました。

駒田 全部落ちたぁ?

(亘、うつむく)

駒田 君は、自己分析はどれくらいやった?業界研究は?筆記対策は?日経は読んだか?小論文対策はやったか?OB訪問は何社やった?

亘 …。

駒田 なんだ、覚えてないのか?そんなことも言えないから三十社も落ちたんじゃないのか?

亘 …。

美里 そんな…。

麻衣 私たちが聞きたいのは、この時期の四年生にどういう対策があるか、ということです。自己分析や業界研究も、冬とは違うやり方が必要かもしれないので、教えてもらえませんか?

駒田 おいおい、四年生で、三十社も落ちて、しかもこんなに暗いんじゃ、対策なんてあるわけないじゃないか。

ちゃんと去年から日経読んで、自己分析やって、業界研究しとけば、今頃ここに来なくて済んだんだよ。

麻衣 でも、就職課は、就職に悩む学生のためにあるんですよね?

駒田 それはそうだが…。

亘 考えられる対策は全部やりました。始めた時期が遅かったとも思いません。志望業界だって、二年生の頃から描いていました。

でも、何かが違う気がして一時期何もしなかったら、いつの間にか時間がたって、どうにもモチベーションが上がらないんです。

駒田 おいおい、だったら就職課じゃなくて、保健室に行った方がいいんじゃないか?

美里 ちょっと、それはひどくありませんか?

亘 僕は自分の引きこもりで失敗したと思っています。だから、何と言われても弁解はしませんし、就職課に頼るつもりもありません。

ですが、僕と同じような気持ちの学生も、この九州学院にはたくさんいます。よかったら、今年の三年生には、対策ばかりじゃなくて、本質的な話をしてもらえないでしょうか?

駒田 本質的な話?我々の教えていること以外に、何の本質があるんだ?

就活は、自己分析して、業界を決めて、説明会に行って、エントリーシートを出して、面接を受ければ終わりだ。それらを全て、早めにやること。それ以外に対策はない。

亘 じゃあ、それをその通りにやった学生たちが、どうして行きたい会社に決まらず、苦しんでいるんでしょうか。どうして決まっても、なお不安なんでしょうか。

この学校では、学生たちの意向を無視して、有名企業ばかりに入らせようとしてはいないでしょうか。

駒田 四季報に財務データを提供できないような会社は一流じゃない。どうせ働くなら、一流企業の方がいいじゃないか。それは就職課だけじゃなく、大学の思いやりなんだ。

亘 思いやり?学生の思いを聞かずに、一体何の思いやりが持てるんですか?もういい、今日はどうもありがとうございました。長々と失礼しました。

美里 先輩…。

亘 失礼しました。

麻衣 どうもありがとうございました。

駒田 …。

(三人、駅へ)

亘 今日は情けないところ見せて悪かったな。

美里 あたし、もっと先輩の話を聞きたいんですけど、今からバイトが…。

亘 そうか、頑張れよ。失敗談ならいくらでも話してやれるぞ。

麻衣 先輩!まだ希望はあるから、私たちと一緒に頑張りましょうよ!

亘 ありがとう。オレだって、まだ希望を捨てたわけじゃない。どんなに遅くなろうと、きっと納得の内定を掴んでみせるよ。

もしかしたら、おまえたちと同じ時期になるかもしれないけどな。じゃあ、今日は本当にお疲れ様。またな。

(亘、電車に乗り込む)

(麻衣の回想)

麻衣 確かに、うちの就職対策は真剣じゃないわけじゃない。資料も情報も、相談体制も整ってる。

でも、何か一つ、肝心なことが全く考えられてない気がする。あの、誰からも慕われてた先輩が、中途半端なことを言うはずもない。

先輩の言ってた「本質的な話」って、どういうことなんだろう?私はそれを知っているのかしら?

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◆第3話「謎の経営者」

(麻衣、帰宅する)

麻衣 ただいま。

母 お帰り。今日は遅かったね。

麻衣 ちょっと友達と話してて。

母 友達って、美里ちゃん?

麻衣 うん。それと、先輩。まだ就職先が決まってない先輩と、就職課に行ってきたの。

母 決まってないって、そりゃ、大変だねぇ。そろそろ、あんたたちの学年が就職活動っていうのにね。

麻衣 先輩、すごく暗かった。苦しそうだった。就職が決まらないと、人はあんなにも変わるものなんだ、って思ったよ。

母 それはねぇ、仕事だからねぇ。お父さんたちだって、失業や転職は大問題だよ。

うちは公務員だからまだいいけど、康司君の会社は、最近二人もベテランの人が辞めたんだってよ。

麻衣 康司君の会社が?小さな会社なのに。

母 あたしゃ、詳しいことは分からないけど、最近はガソリンとか食品も上がってて主婦も財布のヒモが固いし、小さい会社は売上が落ちて、経費もかさんで、大変なんだろうね。

麻衣 お母さんって、経済学者みたいね。

母 どこが学者よ。あたしらはただの主婦。お父さんを応援して、あんたたちの成長を見守るのが仕事なのよ。

麻衣 立派な仕事ね。私もお母さんみたいな主婦になりたいな。

母 お母さんは今からテレビ見るから、あんたはご飯食べて、今日はゆっくり休みなさい。確か、明日は早いんだったね。本当は一緒に食べたいんだけど、あんたが遅かったから、先に食べちゃったよ。ごめんね。

麻衣 ううん。ありがとう。じゃあ、そうするね。

(翌朝。麻衣、自宅を出る。信号で待っていると、近所の幼馴染みの康司が現れる)

康司 麻衣!

麻衣 康司君、久しぶりね。今から仕事?

康司 …当たり前じゃないか。もう学生じゃないんだからな。

麻衣 お母さんから聞いたんだけど、康司君の会社、最近退職があったの?

康司 なんだ、おまえ、相変わらず情報通だな。…まぁ、退職っていうか、辞めさせられたんだけどな。

麻衣 どういうこと?

康司 一年目のオレが言うのも何だけど、ウチの会社、ホント売上きつくてさ。

それで、専務が退職金を満額出せそうにないって言って、早期退職者には規定の金額を出すけど、ずっと残った場合は、満額保証はできない、って言ったんだ。そしたら、一週間で二人も辞めたんだ。

(麻衣、神妙に聞き入る)

康司 で、二人のうち一人が営業の責任者で、その人の得意先がオレにも回ってきて、今日から地下鉄で通うことにしたんだ。ガソリンも値上がりしてるし、通勤手当だけじゃ賄えないからな。

麻衣 …経済って、動いてるのね。

康司 は?…当たり前じゃないか。おまえもしっかり会社を見極めて、後悔しないように選べよ。就職の合同説明会は広告イベントだから、いいことしか言わないぞ。

麻衣 就職課はどうなの?

康司 就職課って…。すまんが全く分からないな。とにかく、オレに言えることは、会社や仕事のことは、社会人になって知ることばかりで、学生時代の経験や知識はほとんど使いものにならないってことだ。

康司 おまえは真面目だからあんまり心配してないけど、対策は早めの方がいいぞ。何かあったら、九時以降なら電話もつながるから、いつでも聞いてくれ。

あ!それと、おまえの学校の近くの喫茶店のマスターに「純一さん」って聞いてみたらいいぞ。面白い社長さんだ。じゃあな。

麻衣 ありがとう。今日もお仕事頑張ってね。

(麻衣、電車の中で考え事にふける)

麻衣 朝の地下鉄で見るサラリーマンの人たちって、改めて見てみると、なんて疲れた顔をしてるんだろう。それに、派遣会社の広告もいっぱい。

サラ金や多重債務者の債務整理の広告も、最近増えてきた気がする。

これって、生活に困っている人…仕事や人生がうまくいってない人が多くて、みんな、苦しんでるってことなのかなぁ…。

(麻衣、大学に到着)

絵里 よっ!

麻衣 絵里。今日は朝から授業なの?

絵里 なぁ~に言ってんの。今日は客室乗務員に内定した先輩に会うから、早く来たの。

麻衣 絵里、JTBって言ってたじゃない?

絵里 それとCA、キャビンアテンダント。

麻衣 どこが楽しいの?

絵里 どこがって…。もしかしたら、芸能人とか有名人に会えちゃったりしそうじゃない?

それに、制服もかわいいし、女の子の憧れだし、男もなにげにスッチー好きだし…。あたしの第一志望って言えるかも。じゃ、あたしあっちだから、また今度ね!

麻衣 じゃあ、またね。

(麻衣、授業に出る。)

美里 あんた、あれからどうだった?

麻衣 美里!びっくりした。あれからって?

美里 亘先輩のこと。あれから何か話したの?

麻衣 いや、すぐ帰ったけど。

美里 昨日みたいな話聞くと、就活がいきなりリアルに思えてこなかった?あたし、フツーに「自分が一社も決まらなかったらどうしよう」って思っちゃった。先輩には悪いけど。

麻衣 そうね。私も正直、先輩があんなにきつそうなのを見て、真剣に考えなくちゃって思った。で、美里、今日はこれからどうするの?

美里 別に。何も入ってないけど。

麻衣 じゃあ、また喫茶店に行かない?

美里 いいよ。じゃ、今から行こっか。

(二人、喫茶店に向かう)

麻衣 こんにちは。

マスター おう、君たちか。今日は早いね。

美里 授業、二限までだったんです。

マスター 昨日の男の子はいないの?

麻衣 はい、今日は一緒じゃありません。

マスター そうか。昨日は突然のことで、何の相談にも乗れなくて悪かったと思ってたんだよ。

美里 マスターが気にすることじゃありませんよ。

麻衣 マスターに聞きたいことがあるんですけど。

マスター 何だい?

麻衣 このお店に「純一さん」って方が来られてると聞きました。

マスター あぁ…純一さんか。時々来てるよ。平日の夕方から、よく若者と話しているね。

麻衣 私の知り合いの人が、その人のことをマスターに尋ねたらいい、って言ってたんです。

マスター あの方はあらゆる仕事に精通してるからね。風来坊のような変わったお客さんだけど、僕がここから見てても、ここに来た若者たちの表情が見違えるように変わるのはよく分かるよ。若いのに、大したもんだ。

麻衣 若い?何歳くらいなんですか?

マスター そうだねぇ。見たところ、三十前後じゃないか?

以前、一人で来た時にちょっとお店の話をしたら、瞬時に利益率を計算されて、そのアドバイスが全部当たっていて、ウチもお客さんが増えたんだ。

美里 変わった人ですね。

マスター 来週あたり、また夕方過ぎに来るんじゃないか。学生たちもけっこう来るから、よかったら見に来てみたらどうだい?

麻衣 そうですね。じゃあ、また来てみます。

マスター じゃあ、昼のお代はいいよ。今度まとめて、ってことにしよう。

麻衣 え?そんな…ごめんなさい。

美里 ありがとうございます。

マスター 僕も、君らのような若者にウチの店を使ってもらいたいからな。

(翌週、再度来店)

学生1 …僕、実は四年生なんです。もう二十社も受けているのに、一社も決まらないんです。

(麻衣 えっ?就活の話?)

学生1 それで、ここに相談に来ると誰でも理想の内定が決まると聞いて、初めて来てみました。

学生2 ぼ、僕じゃなくて私も、噂を聞いて一緒に来ました。

純一 ようこそ。僕でいいよ。お互い頑張ろう。どうぞよろしく。

学生1、2 よろしくお願いします。

純一 君たちは、どういう業界を中心に受けてきた?

学生1 僕は広告代理店です。

学生2 僕は不動産会社です。

純一 そうか。じゃあ、「商社」だね。

学生1、2 しょ、商社?

純一 そう、商社だ。会計的に見ればね。

学生2 「会計的に」…?

純一 君たちは財務諸表は読める?

学生1 はい、少しは…。

純一 じゃあ、資産欄を上から順に言ってもらえるかな?

学生1 えっと…確か「流動資産」があって…。

学生2 その下は「固定資産」です。

純一 そうだね。じゃあ、流動資産は、何と何で構成されてる?

学生1 それは、分かりません。

学生2 「棚卸資産」です。

純一 そう。それと「当座資産」だね。じゃあ、その二つの違いは?

学生1、2 分かりません。

純一 そうか。でも安心してほしい。これが分かれば、今からでも理想の内定は楽勝だ。では、今から会計的視点について説明していこう。

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◆第4話「会計的視点」

学生1 あの…僕たちは、就職の相談に来たんですけど。

学生2 もしかして、今日は今日で、別の予定の日だったんでしょうか?

純一 これが就職の話だけど。

学生1 僕、今日あまり時間ないんで、よかったら、広告代理店のエントリーシート見てもらえないかと思って来たんですけど…。

純一 別に見てあげてもいいよ。

学生1 じゃ、お願いします。

(純一、ESを受け取る)

純一 …「前例にとらわれない発想が私の武器」で、「表現の限界」に挑戦したくて、「ゆくゆくは世界を目指したい」のが夢か。

学生1 は、はい。

純一 君はいつも、こういう風に書いてきた?

学生1 えっと、今回のはかなり勇気を出して強気で攻めてみました。

純一 どこをどう強気で書いた?どこがどう、前例にとらわれていないんだ?

学生1 …。

純一 もしかして、このエントリーシートが君の「表現の限界」じゃないのか?

学生1 そうかもしれません…。

純一 まぁ、いい。(全員の方を向いて)君たちも今日はよく聞いてほしい。今日は就活の基本を話す。

(麻衣 就活の基本?)

純一 広告代理店の商品は何か?分かる人?

学生 チラシとかCMです。

純一 じゃあ、不動産会社の商品が何か分かる人?

学生 土地や建物です。

純一 違う。

(麻衣、美里 えっ?)

純一 確かに商材は媒体や土地、建物だけど、その形式を採る前に、会計的に見ることが大事だ。

君、(学生1を向いて)棚卸資産と当座資産の違いは?

学生1 すみません、忘れました。

純一 当座資産というのは、現金、預金、売掛金、手形などのことで、換金のためには「時間の経過」か「所定の手続き」が必要な財産のことだ。

君、(学生2を向いて)売掛金って何だ?

学生2 えっと…確か、商品は売ったけど、代金はまだもらってない時の…。

純一 そう。売掛金とは「売ったけどまだもらっていないお金」、すなわち「所定の期日が来れば換金される資産」だ。つまり、「時間が立てば現金に変わる」ものだね。

このことから、当座資産とは、「既に売れている財産」ということができる。

学生2 はい。

純一 じゃあ、棚卸資産とはどんな資産だ?

学生1 ってことは…「これから売る財産」!…でしょうか?

純一 そう。もっと正確に言えば、「換金のために販売行為が必要な財産」だ。

例えば、この喫茶店にはチーズケーキがある。あのケーキは、ここのお店を見れば厨房がないことからも分かるように、どこかの製菓会社から仕入れている。

じゃあ、ここで質問だ。あのチーズケーキは、「時間がたてば」自動的にお金に変わるか?

学生たち 変わりません。

純一 そうだ。在庫は時間が立てば品質が劣化し、価値が下がる。だから、ここ(棚卸資産欄を指差して)に入ったら、できるだけ早く卒業してもらわないと困る、ということだ。

「入った時より、出る時の方が成長している状態」で、ね。

学生1 …なんだか、僕ら学生みたいですね。成長せずに滞在していたら、留年するのと同じだと思いました。

純一 そう。いいところに気が付いたね。

つまり、棚卸資産とは、お金を増やすためにお客さんとコミュニケーションを行なう道具、つまり「商品が出番を待って待機している控え室」だと考えればいい。

(麻衣 …なんて鮮やかな説明なのかしら)

純一 この棚卸資産、つまり在庫を「製造」、「加工」の段階から形成する業態を「メーカー」と呼び、「仕入れ」、つまり完成品の購入によって形成する業態を「商社」と呼んでいる。

だから、世の中にはメーカーと商社しか存在しないんだ。販売業、サービス業も商社の一部だと考えていい。会計的に見れば、世の中には二つの業界しかないということだ。

そして、完成品や原材料を仕入れるためのお金は、もちろん「当座資産」から捻出する。

例えば、50円でチーズケーキを仕入れて、100円で売れば、いくらの利益が出る?

学生2 50円です。

純一 そう。つまり、50円の当座資産を投資して、50円相当の棚卸資産を購入し、100円の価格を設定して販売したら、50円余分に当座資産が返ってきた、ということができるね。

学生2 なるほど…。

純一 ならば、良い商売とは、「投資以上の回収を生む営み」、すなわち「お金を使ったら、お金が増えた」というプロセスを実現することにある。

学生1 お金を使ったらお金が増える…。

純一 広告代理店は、より高く販売できるであろう時間帯や空間を見つけて安く購入し、デザインや音声で表現して付加価値を高め、転売している点で「商社」だ。

不動産会社は、広告代理店がやっていることを土地と建物でやっているだけの「商社」だ。

君たちは雑誌、テレビ、ラジオ、ビル、マンション、商業施設などと「モノ」で見るから、全部が別の業界、別の仕事に見えるだろうけど、全ての商品は基本的に、様々な形態を採る以前に、まず「棚卸資産」と考えていい。

そして、棚卸資産が入居時より成長して還元されるためには、「お客様の問題を解決して喜びに変える」ことが必要なんだ。

世の中で存続、発展している会社は全て、お客様がその会社の棚卸資産の価格を認め、存続を承認した会社だと考えればよい。

「お客様が求める在庫」を実現できれば、現金を頂いて存続することができる。

だから、全ての仕事は「問題解決」なんだ。

(麻衣 問題解決?)

学生2 社長さんって、そう考えているんですね。

純一 そうだ。君たちは「ほっともっと」と聞くと、「なんだ、弁当屋か」と思うだろう。

確かに、「モノ」で見れば弁当屋さんだ。だけど、ほっともっとのお客さんはどういう人が多い?

ある学生 えっと…自炊が面倒な人。

別の学生 あと、時間がない人とか、外食は高いと思う人です。

純一 そうだね。

だから、自炊する余裕がないほど疲れたサラリーマンや、時間がないOLや、お金を節約したい学生は、もしそんな問題を解決して、手軽に、速く、安く、そしておいしく弁当を提供してくれるお店があれば、買いに行くだろう?

学生1 行きます。

純一 ほっともっとは、外見は弁当屋さんだけど、創業者は誰にも負けないくらい、弁当が好きで好きでたまらなかったのか?だったら自分で食べればいいよね。

でも、創業者はきっと、若い人たちの食習慣が乱れ、栄養が偏り、添加物が入った食品ばかり食べていたら、この国の将来はどうなるのか、と考えたとは思わないか?

世の中の全てのお金は、「問題が解決される場所」に流れ込んでいるんだ。

(麻衣 創業者の思い…)

純一 だから、創業者はこの国の未来を支えるであろう、若くて忙しく、そして経済的余裕がない人たちのために、「速くて安くて便利でおいしい」という食事を提供すれば、社会貢献ができるという「コト」に気付いたんだ。

純一 そして、この「コト」こそ、君たちが共有すべき志望動機だ。

モノはコトを表現する手段に過ぎない。モノはコトに従属する。

君たちは弁当に興味がなくても、若い人たちの時間とお金を節約し、健康増進に役立ちたいという思いには、十分共感できるだろ?

学生1 できます。てか、ほっともっとってすごい…。いつも食べることしか考えてなかった。

純一 君たちは「洗濯機」には、別に興味もないだろう。

でも、戦後、働き手を失った子沢山の母親が、洗濯という重労働で苦しんでいたのを見て、なんとか家事を減らして、空いた時間を子育てや休息に充ててほしいと願ったメーカーの思いには、感動できるだろう?

学生2 洗濯機って、すごいんですね!

純一 そうだ。「モノ」に囚われる視点を忘れ、「コト」に着眼すると、全ての仕事の魅力が見えてくる。

この思い、つまり「わが社は社会にこういうコトを提供したい」という気持ちが、その会社独自の分野で商品やサービスに変身して、提供されているんだ。

そこにこそ、「社長の創業動機」、すなわち「全社員が従い、守り、受け継いでいく最強不変の志望動機」があるということになる。

だから、「弁当を」売るんじゃない。「弁当で」売るんだ。「広告を」売るんじゃない。「広告で」売るんだ。

じゃあ、何を売るのか?「相手の可能性」だ。これが本当の商品だ。

そして、君たち学生がこの就職活動において掴み、内定後も保ち続けるものこそ、この本質的な志望動機なんだ。モノを志望動機にした時から、迷いと失敗が始まる。

その証拠に、受からない学生は「どんな自己PRを言えば良いか」、「どんな志望動機を言えば良いか」ばかり考えている。

その題材を使って、相手や自分の可能性を表現しようとは思わない。あるのはただ、「何を伝えればいいか?」という主観的な焦りだけで、「どう伝えればいいか?」とは考えない。

できない営業マンもこれと同じで、「営業とは、モノ、すなわち商品を売る仕事だ」と思ってる。だからきつい。だからできない。だからすぐやめる。

しかし、「営業」という言葉の定義が違うなら、きつくて、結果が出なくて当然だ。

仕事が楽しくない、就活が楽しくないなんて言う若者は、ただの「怠け者」ということだ。楽しくない就活は間違いだ。

(学生たち、真剣に見入る)

純一 どうだ。社長の視点に立つと、ワクワクしてこないか?そんな志望動機を持って働けたら、どれだけ仕事が楽しいと思う?それ以前に、就活も楽しくなるね。

(麻衣 なんて分かりやすいのかしら…。こんな話、就職課じゃ絶対に聞けない)

純一 『孫子』第四章には、「勝兵は先づ勝ちて而る後に戦い、敗兵は先づ戦いて而る後に勝ちを求む」とある。

「勝者はまず勝って、それから戦うが、敗者はまず戦って、それから勝ちを求める」ということだ。この名言を会計的に翻訳してみよう。

(麻衣、美里、見入る)

「できる学生は、まず内定して而る後に就活し、できない学生は、まず就活して而る後に内定を求む」だな。

「できる学生は、まず卒業して而る後に入学し、できない学生は、先づ入学して而る後に卒業を求む」だな。

「できる営業マンは、まず契約して而る後に商談し、できない営業マンは、まず商談して而る後に契約を求む」だな。

「できる社長は、まず売れて而る後に仕入れ、できない社長は、まず仕入れて而る後に売上を求む」だな。

つまり、勝つ人は最初から既に勝っている、ということだ。先に勝って、後から戦うんだ。

ならば…君たちもまず、今、心の中で「最高の未来」に内定すべきだとは思わないか?

インプットがアウトプットを作るんじゃない。どんなアウトプットを想定しているかで、今のインプットが決まるんだ。就活は会計と同じだ。

情報収集をすれば有利になるんじゃない。自己分析を頑張れば有利になるんじゃない。

生き生きと未来を描き、心の底から「仕事って楽しい!」と思えてこそ、最高の情報に出会え、最高の自分が見えてくるようになるんだ。

君たちの心の中には、相手が高値を出して買いたい「最高の未来」という商品があるか?そんな未来像から導かれた努力を、今やっているか?

もしかして、「とりあえず、やってみなきゃね」とか、「将来のことなんて、内定してからでいいっしょ」なんて考えてないか?

だったら、受からなくて当然だな。そんな面接は、「落としてください!」と言いに行ってるだけだ。つまり、「まず落ちて、而る後に面接せよ」だ。

学生1、2 …僕たち、間違ってました。まったく逆のことをやってました。今言われた「できない学生」は、全部僕らに当てはまってて、耳が痛かったです。

純一 それを認めたところからチャンスが生まれる。一緒に頑張ろうじゃないか。これから毎週来るといいよ。今日のような話は、基礎の基礎に過ぎないからね。

(麻衣 これで基礎の基礎だなんて!)

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◆第5話「終わらない自問自答」

純一 じゃあ、みんな、今日はお疲れ様。そろそろ合同説明会も始まるだろうから、今度はそれについて話そう。

学生たち お疲れ様でした。ありがとうございました。

(店内が閑散とする。)

(純一、一人で作業をする)

麻衣 あの…。

(純一、顔を上げる)

麻衣 さっきの話、とても勉強になりました。

純一 それはどうも。学生さん?

麻衣、美里 はい。九州学院大学の学生です。

純一 じゃあ、さっきのみんなと同じだね。

美里 今の人たちって、サークルか何かなんですか?

純一 ああ、「起業・取材サークルRUN」っていうサークルだよ。


麻衣 RUN…。聞いたことがあります。

純一 毎月雑誌出してるからね。九州学院の学生さんは特に多いよ。あと、箱崎の筑前大学の学生さんも多いね。さっきも四人ほどいた。

麻衣 実は、近所の康司さんに純一さんのことを聞いて、何のあいさつもなしにここに来て、失礼ながら、ずっとお話を聞いていました。

美里 すっごい面白かったです。

純一 康司君?ああ、彼は去年の卒業生だ。最近は上司が辞めたそうだけど、彼なら立派に引き継いでやっていくだろう。

麻衣 いつも、こんな勉強をやってるんですか?

純一 勉強?まぁ、就職活動対策はボランティアだね。サークルでは、もっと本質的なことを教えてるよ。

この店は仕事場に近いし、時間的にも学生が多い時に仕事が終わるから、よく使ってるんだ。

麻衣 「本質的なこと」って、どんなことなんですか?

純一 …簡単には説明できないくらいたくさんあるけど、学生には「職業観」を教えてるよ。

美里 職業観?

純一 そう。仕事とは何か、働くとは何か、ってこと。

麻衣 さっきの話以外にもあるんですか?

純一 だから、さっきの話は、「基礎の基礎」なんだって。

僕は就職活動には興味がない。ただ、若者が天下国家のために雄大な気持ちで働くことにのみ興味がある。

麻衣 あの…。サークルの勉強会って、誰でも参加できるんですか?

純一 誰でも、いつでも参加できるよ。

美里 あたし、入部したいです!

純一 そうは言っても、僕はただの顧問だからねぇ。今度、見学に来てみたらいいよ。ホームページから申し込めるから、近いうちにメールで問い合わせたらいいよ。

麻衣 あの、四年生でも見学に行けますか?

純一 もちろん。サークルの新入部員の半数は、「内定後の四年生」だ。

美里、麻衣 ええっ?

純一 普通なら、卒業を控えて一番遊びたい頃の学生たちが続々と入ってきて、ホントに変わったサークルだと思うよ。

まぁ、それくらいやる気がないと、こっちも教え甲斐がないけどね。「内定のため」なんて低レベルな動機で来られちゃ、迷惑だから。

麻衣 実は、私が一緒に連れていきたい先輩は、まだ内定してないんですけど…。

純一 内定していようがいまいが、僕には何の差でもない。学生は学生だ。未来に賭けたいと思うなら、その気持ちだけ持って見学に来たらいいよ。

麻衣 じゃあ、早速次の勉強会に行きます。

純一 そうか。じゃあ、楽しみに待っておくね。どうぞよろしく。

麻衣、美里 よろしくお願いします。

(麻衣、美里、帰宅)

(亘、部屋でベッドに横たわりながら電話中)

亘 …だからさぁ~、別にいいんだって。オレはオレなりにやってるんだから。

麻衣 でも、絶対にいいきっかけになるって思ったんです。

亘 おまえの気持ちは有り難いけど、今頃「サークル」なんて行けるか?

麻衣 あそこは普通のサークルじゃない。学生の目の色が違ってました。

亘 お~、怪しい、怪しい。

麻衣 センパイ!

亘 オレは四年生だぜ?しかも「未就職」。要するに、「フリーター予備軍」ってことさ。

麻衣 どうしたんですか、そんなこと言って!

亘 オレのプライドにかけても、そんなサークルの見学なんて、行くもんか。

麻衣 でも、新入部員の半数が「内定後の四年生」って言ってましたよ。

亘 何だって…?

麻衣 顧問の人も、「内定のために来られちゃ迷惑だ」って言ってました。

亘 ってことは…。

麻衣 純粋に勉強するサークルってことでしょう?私も美里も今度行くから、先輩も一緒に行きましょうよ。

亘 おまえがそこまで言うなら、よし…一回だけだぞ。一回だけ行ってやる。行って満足できなかったら、今度パフェおごってくれよ。

麻衣 はい。パフェでもコーヒーゼリーでも、何でもごちそうします。

亘 最近、世の中が敵ばかりに見えるオレには、おまえのような優しい奴は珍しいね。こんなオレの世話してて、いつか後悔したなんて言うなよ?

麻衣 じゃあ、今度の土曜に、赤坂市民センターで。

亘 おい、後悔…。

(プー、プー)

(亘、回想)

亘 ふん、何がサークルだ。

あんなに真面目に頑張って、三十社も落ちたオレの気持ちが、誰に分かるってんだ。

くそっ…。

(亘、涙を流す)

オレは、進学校の筑前館高校を卒業したエリートだ。筑前大学には落ちたけど、九州学院では成績が悪かったわけでもない。

オレは就職で、この差を挽回するはずだった。なのに…。

日経も読んだ。四季報も読んだ。志望順位が五位以内の会社は、財務データだってきっちり覚えた。オレの予定では、オレは今頃、三井商事に内定していたはずなのに…。

それが、無名の双丸にまで落とされるなんて…。

オレは自己分析を徹底的にやり直した。筆記試験だって、元から完璧に近かったけど、それでもさらにやった。時事用語集だって、真っ赤になるほど繰り返した。

友達や、特に麻衣や美里たち後輩の前では、「就活なんて気にならない」って強がってるけど、正直、もう限界だ。

ああ、オレはこのまま行けば、「フリーター」なのか?そんなこと、絶対に許せない。…だけど、バイトもせずに卒業後もこのままだと、「ニート」ってことか?まさか…。

筑前館出身のオレも落ちたもんだ。最近、内定した奴らがミョーにムカついてたまらない。

あいつらのうち、一体、オレ以上の努力をした奴が、どれだけいるっていうんだ?オレより頭がいい奴が、どれだけいるっていうんだ?

オレより早くから商社を目指していた奴が、どれだけいるっていうんだ?九州学院ごときに。

もしかして、オレは就活以前に、大学入試で既に失敗していたのかもしれない…。

仕事なんて、所詮は会社の命令を聞いて、カネもらうだけだ。なら、有名大企業に限る。世の中、結局ブランドなんだ。

オレはドライに割り切った。志望動機だって完璧に覚えた。一分、三分、五分の自己PRをオレほど完璧に言える奴は、そうはいない。

SPIの点数がオレよりいい奴も、オレより早く解ける奴も、そうはいない。

面接の質問を想定して、オレほど回答を練習した奴も、そうはいない。

なのに、なぜ…。

(亘、枕に顔をうずめる)

世の中、間違ってやがる!

(夜が明け、日が経ち、土曜を迎える)

麻衣 先輩!

美里 来てくれたんですね。麻衣が「もし来なかったらどうしよう」って言ってたんですよ。

亘 何言ってんだ、ちゃんと準備して待ってたんだって。ま、今日一回限りだけどな。

麻衣 よかった、来てくれて。

美里 先輩も絶対感動しますよ、あの人の話。

亘 五十社以上の説明会に行ってきたオレだぞ?そう簡単に感動するかって。

麻衣 とにかく、あと十分だから赤坂市民センターに行きましょ。

美里 そうそう、あっちあっち。

(三人、市民センターに向かう)

純一 おはよう。

麻衣、美里 おはようございます!

純一 おう、君たちか。おはよう。今日はよろしく。

亘 おはようございます…。

純一 おはよう!よろしく。

司会 では、今から第390回目のRUNゼミを始めます。よろしくお願いします!

(麻衣、美里 390回?すごい活気…。)

司会 じゃあ、今日の講義は「職業観とは何か」。純一さん、お願いします。

(純一、登壇)

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◆第6話「職業観」

純一 今日は皆さんに「職業観」についてお話しするわけですが、その前に、今日は見学者も多いようなので、簡単な質問から始めます。

まず、「給料」を払ってくれるのは誰ですか?

ある学生 会社です。

(亘 じゃないのかよ?)

純一 そう考えたいところですが、違います。答えは「お客様」です。

(亘 何、宗教みたいなこと言ってんだよ。だから言ったんだ。来るんじゃなかった。)

純一 では、「働く」とはどういうことでしょうか?

ある学生 えっと…会社に勤めて真面目に仕事をすることです。

純一 じゃあ、その「真面目」とは、どういうことですか?

(亘 タラタラ話してるんじゃねぇ。早く本題に入れよ。こっちは眠いんだ。)

ある学生 気合いを入れて耐えることです。それと、できるまで諦めないことです。

純一 それも確かに大事ですね。しかし、それだけじゃない。「真面目」とは、「創造的に怠けること」です。

(麻衣、美里 えっ?)

純一 例えば、先週は百点取るのに一時間かかったテストを、今週は五十分の勉強で百点取れれば、それが「真面目」ということです。

三回のプロセスが必要だったことを、二回で終えられたら、それも真面目だと言ってよい。

純一 要するに、真面目とは「時間を減らして成果を高める」ことだと言えるでしょう。

長々と時間をかけていると、それだけで自分は「頑張っている」と勘違いする。成果がどうであろうと、長期間努力したことをもって、過程を正当化したくなる。

その気持ちは分からないでもありませんが、時間をかけて成果が上がらないことは、「怠慢」と認めるべきです。

頑張るとは、主観ではなく客観の問題です。意欲も大切ですが、結果が出ないなら、それは「正しい努力」とは言えません。

(亘 おい、オレのことかよ!この真面目なオレを怠慢だと!)

純一 皆さんにも、こういう体験はありませんか?

(麻衣、美里 注目)

純一 例えば、頑張って勉強しているのに、成績が思うように上がらない。

面接や書類対策を頑張っているつもりなのに、なかなか内定がもらえない。

計画的に運動をしているはずなのに、なかなか体重が減らない。

純一 人間はこのように、自分がやっていることが、やろうとしていることにつながらないのを自覚すると、ストレスを感じ、不安になって、自信を失っていきます。

しかし、その現実を素直に認めようとする人は少ない。特に「若者」は。

逆に、崩れたプライドを満たそうと、周囲を恨んだり妬んだりして引き下げ、自尊心を満たそうとする、劣等感にまみれた若者も多いのです。

(亘、汗を流す。)

純一 ここで、企業や個人の問題を考えてみましょう。

皆さんの就活や受験のように、純粋に失敗の被害が個人だけに限定される活動ならまだいいでしょうが、企業や家計には、不得意なことまで全部自分で引き受けてやろうとすると、どうしようもなくなる時がたくさんあります。

例えば、トヨタが「社員食堂が無駄だ」と社員に自炊を命じれば、いかにクルマで世界一の会社とはいえ、調理技術は中学生並みでしょう。

電通が自社作品の郵送料を切り詰めようと、運送部門を作ったって、広告技術は一番でも、運送技術では町の軽トラにも劣るでしょう。

純一 だから、企業は「得意教科」に集中し、そして「不得意教科」を他者、他人にアウトソーシングします。

そして、この、他人が解決に悩んでいる不得意教科を、自社で得意教科とする人たちが受注した時、「取引」、つまりビジネスが生まれるのです。

(亘 確かに。)

純一 得意とはどういうことか?それは、同じことを達成する時に、他人より投下資源が少なくて済むということです。

あるいは、同一の時間、労力、資金を投じて、他人以上の成果を見込めるということです。

つまり、他人が「怠慢」であることを「真面目」にこなせれば、その資源の差額が、ビジネスになるんです。

電通がクルマを作れば、粗悪品に莫大な時間がかかるでしょう。一方、トヨタが広告を作れば、電通ほどの効果を生み出せるとは考えられない。

だから、お互いに自社の不得意分野を相手に任せ、その代償として対価を支払っています。

これが「売上」です。そして、会社には売上以外にお金を生み出す手段はありません。借入れも出資も、本業の売上が順調でなければ期待できない金融手法です。

だから、「本業」こそ第一の資金調達手段なのが分かるでしょう。したがって、全ての給料は「お客様」が払っているんです。

それを時々、「給料を払うのは会社だ」と勘違いしている人もいますが、給料の出て来る場所を会社だと思い込むと、部長や課長に頭を下げることになります。

会社はお客様から預かった資金を蓄え、給料日に配分するだけの組織に過ぎない。

ですが、「モノ」で見る人は、こういう単純な事実が分からないので、毎年、年末になると胃薬を飲みながら、ストレスに耐えてペコペコしています。

そして、本当に頭を下げる対象である「お客様」には陰で文句を言っている。まさに会社の「ガン細胞」としか言いようがない。

全ての仕事が「お客様の問題を解決して、悩みを喜びに変える営み」であれば――。

申し訳ないですが、この手の人たちは、「入社」はしたが「仕事」は全くしていないことになる。

(亘 何だって?)

純一 そして、夜に屋台や居酒屋に行けば、「課長の野郎、なめやがって!」とか、「部長に今度会ったら、辞めるって言ってやる!」などと息巻いています。でも、また会えば相変わらずペコペコしています。

しかし、心配する必要はない。

入社してもまともな仕事をしていないんだから、「おまえはもう、辞めている」のです。仕事とは何かという前提、つまり職業観が間違っていれば、「就職したって仕事はできない」のです。

つまり、この人の仕事の理解度は、今も「就活」で止まっているんです。どうせ、学生の頃から、知名度や規模しか尺度がなかったんでしょう。頭の使い方を間違えると、本当に恐ろしいものです。

(亘、冷や汗)

純一 皆さんも、社会人がスーツを着て名刺を持っているからといって、みんなが「仕事」をしていると思ってはいけません。

多くの人は、仕事をやっているのではなく、「自分が仕事だと思うこと」をやっているのです。本当の現実ではなく、「自分の願望に合致する現実」と向き合っているのです。

そして、仕事とは、先ほども話したように、外においては、自分の得意分野をもって相手の不得意分野を解決し、悩みを喜びに変える営みで、内においては、怠慢を真面目に変える営みです。

だから、まじめにやれば、楽しくないわけがない。

仕事が楽しくないなんて言う人は、「怠け者」です。

就活が楽しくないなんて言う学生も、「怠け者」です。

所詮、頑張ったのは受験勉強ごときで、自分の頭を使ったことは一度もないんでしょう。

(学生たち、集中)

純一 ですから、会社を発展させたければ、仕事を成功させたければ、就活を成功させたければ、その答えは至って単純です。

それは、「仕事とは何か」という職業観を正しく確立し、共有すればいいのです。

「相手の喜び」を基準に自分の言動を修正し、「相手の要望」に基づいて、悩みを喜びに変えていく過程に、努力を集中させればいいのです。そうすれば、失敗する方が難しい。

(麻衣、美里 集中)

しかし、世の中の、特に「ミーハー」と言われる連中は、こういう素朴な事実が理解できない。フリーターにもそういう人が多いのです。

人前では強がって、家に帰ればウジウジ。

最後は社会を恨んで、過去を恨んで、他人を妬んで、「本当の自分は、こんな自分じゃない!」などと言い出す。

「型にはまらないのが魅力」とか言う人ほど、見事なまでに「負け犬の型」にはまる。職業観がずれていれば、最初から終わっています。

そうして、惨めな現実を受け入れまいと虚勢を張る。その、虚勢を張って時間を浪費している今の自分が、「本当の自分」なんです。

(亘、ショックで青ざめる。)

純一 だから、資源の最適化を目指す、つまり「目標達成に向けて現実の自分の落差を埋める」という点においていえば、就活も立派な仕事です。

「活動」とは、成長が伴う継続的な行動です。

「オレももう社会人か。いつまでもこんな生活できないな」と思って、悪習慣を断つ。

あるいは、「将来の成功のために、公認会計士の勉強をしよう」と思って、習慣的な勉強を始める。

または、「早起きに慣れよう」と思って、新しいイベントを生活に組み込む。

そういう地道な行動を続ければ、未来と過去の展望が変わり、現実に良い影響を与えます。

「自分と未来の見え方」が変わる。「成長」とは、このような変化を指すのではないでしょうか。

(麻衣、美里 集中)

純一 だから、就職活動とは、「自分を成長させる営み」であって、「成長した自分を伝達する技術」ではありません。

学生の中には、自己分析、エントリー、筆記試験、書類提出、面接などを「就活」と呼ぶ人も多いですが、これのどこが「活動」ですか?

夜、家で20社エントリーして、良い汗をかきますか?履歴書を書いて、感動の涙が流れますか?流れないでしょう。

これらは所詮「手続き」に過ぎません。活動と手続きは厳密に区別されるべきです。そして、目に見える手続きだけを「活動」だと誤解しないことです。

そして、根本において職業観が欠落し、小手先の対策ばかりに躍起になって、手続きを活動と呼んで本質をごまかす就活を、「就活ごっこ」と呼びます。

皆さんが今からやろうとしていることは、活動と手続き、就活と就活ごっこのどちらですか?

ごっこで失敗した人を見たければ、ハローワークにでも行けばいい。相変わらず、条件や待遇を重視し、書類や面接で勝負が決まると思っている大人に会えます。

つまり、職業観が存在しない人は、年を取ろうが同じ悩みに苦しみ続けるということです。

(亘、凝視)

純一 ですから、このサークルに入ることで「就活に有利になる」とか考えている人は、来なくてよろしい。就活サークルなんて、最近はいっぱいあるようだから、それにでも行けばいいでしょう。僕はそんな「ごっこ」には何の興味もない。

僕は学生の味方ではなく、頑張る若者の味方でありたい。素朴なことでも、未来を信じて誠実に生きる現実を分かち合い、将来、そんな過去を笑顔で回想できる仲間でありたい。

お互いの職分を誠実に守り、仕事において自己表現と社会貢献を行い、そうして尊敬しあいたい。だから、今、職業観を鍛え抜きたいのです。

(亘 悟る)

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◆第7話「やりたいこと」

(講義終了。学生たち、歓談)

(麻衣、美里、亘、ロビーの純一に近付く)

麻衣、美里 今日は本当に勉強になる話、ありがとうございます。

純一 それはどうも。

亘 ぼ、僕、四年なんですけど、感動しました!今まで全く聞いたことがなかった話なのに、自分の求めていたのはこれに違いない!と確信しました。

純一 そうか、それはよかった。ここには四年生もいっぱいいるから、これから一緒に学べる仲間になったらいいね。

亘 あの…。実は、僕、まだ内定もらってないんです。

純一 今、選考は受けてる?

亘 いえ…。五月の連休でちょっと休んでいるうちに、なんだかやる気がなくなって、そのままもう五ヶ月近く、何もしてません。

純一 そうか。でもまだチャンスはいっぱいある。将来の夢はあるのかな?

亘 夢…。四月くらいまでは一応あったんですが、落ちるうちに自信なくして、もう、今は将来何をしようというのは考えていません。とりあえず、内定が欲しいです。

純一 周りにも、そういう四年生はたくさんいる?

亘 そうですね…自分の周りには、「やりたいことが見つからない」って言って、何の対策もしていない人もいます。

麻衣 「やりたいこと」って、どうやったら見つかるんですか?

美里 あ、それ、よく聞くよね。やりたいことがあったら、就活に有利だって。

亘 自分も、よかったら教えてもらえますか?

純一 「やりたいこと」ってのは、学生の流行語だね。

それがあれば有利だし、なければ就活に手を抜いていても許されるような雰囲気がある。

自分が全力で打ち込む価値があるかどうかを最初に見極めて、それに値するなら頑張ろうという学生も多いけど、そんな考え方は、おかしいんじゃないかな?

亘 どういうことですか?

純一 もう五年、このサークルで教えてるけど、僕には、「やりたいこと」を見つけたがる学生の気持ちは、分からないよ。

麻衣 えっ?

純一 しかも、このRUNで勉強しても、やりたいことは見つからない。

美里 そんな…。じゃあ、なんでみんな、あんなに生き生きとしているんですか?

純一 簡単だよ。「やっていることを好きになるのが才能だ」ということを、みんな理解しているからだ。

亘 やっていることを好きになる…。

純一 例えば、君たち、飲食店でバイトしたことはある?

美里 あたし、やってます!もう、一年半です。

純一 そうか、頑張ってるね。でも、最初の一ヶ月くらいは、大変だったでしょ?

美里 ええ、皿割ったり、注文間違えたり、遅刻したり、色々と叱られました。

純一 しかし、君は今も続けている。なぜ?

美里 それは…。

純一 皿を割れば、運び方を気にするようになる。注文を間違えれば、お客さんに配慮するようになる。遅刻すれば、生活のリズムを考えるようになる。そうして、一つ一つの作業に熟練していく。

美里 確かに…。

純一 そのうち、自分のタイミングの良い提案でお客さんが追加注文をしてくれたり、顔を覚えたお客さんが話しかけてくれたり、新人研修で教えた後輩が「先輩のおかげ」と頑張るようになったり…。

こうして、一つのアルバイトを続けていくと、見えるものが変わってくるよね。

最初は、注文の集計なんて、何も楽しくなかったかもしれない。でも、ずっとやっているうちに、より速く、より確実にやろうと思うようになり、実際、それができた。

麻衣 シフトリーダーになったり、発注管理を任されたりしますよね。

純一 そう。つまり、同じ仕事を続けているうちにやれることが増え、責任も大きくなり、自分が職場や現実に与えられる影響も強まってくる。

美里 あたし、今、ホールのサブマネージャーです。

亘 影響…。

純一 つまり、未熟な状態では仕事や生活に何の影響も及ぼせなかったのに、自分の知識や能力が向上した結果、仕事を支配できるようになったんだ。これが「やっていることが好きになった」ということだね。

(亘 注目)

純一 家庭教師、コンビニの店員、テストの採点、軽作業、イベントスタッフ…こんなバイトは、学生なら誰だってやるし、すぐに辞める人もいる。「自分には合ってない」と言って。

でも、地道に続ける人は、昨日と同じ失敗はしない。先週と同じ終わり方はしない。やればやるほど、その仕事が持っている楽しさが見えてくる。

これは、習い事でもスポーツでも、芸術でも同じだとは思わないか?

最初は単調で、自分はなんて下手なんだと嫌になることも多いけど、ずっとやっていると観察力が高まってくる。

すると、その作業が楽しくてたまらなくなり、そうして、自分に成長をもたらしてくれたその作業を、「やりたい」と思うようになる。感謝と謙虚さは、継続のプレゼントだ。

麻衣 なるほど…。

純一 君は、「理想のタイプの男性」との出会いと、「出会った男性を誰でも口説ける話し方」のどちらが欲しい?

美里 そりゃ、もちろん、誰でも落とせたら最高です。

純一 「一億円の当たりくじ」と、「百万円以内なら当てる方法」のどちらが欲しい?

亘 方法です。続ければ、いずれは一億円も超えられるかもしれませんから。

純一 そうだね。そんなふうに、人が好きだと思わないこと、人が後回しにしそうなことに地道に取り組めば、「人には見えない楽しさ」が見えてきて、どんな仕事も好きで得意になるだろう。

じゃ、もう一つ質問。

君たちは「やりたい仕事」と、「どんな仕事でも楽しめるセンス」のどちらが欲しい?

(三人 唖然とする。)

純一 まさか、「やりたいこと」なんて言う学生はいないよね。それよりも、どんな仕事からも楽しさを発見して手に入れられる知識と考え方があれば、何をやっても「やりたいこと」になる。

つまり、どの宝くじを買っても「当たり」にできるってことだ。

麻衣 じゃあ、「やりたいこと」って…。

純一 こだわる価値も意味もない考え方だ。こんな言葉は、君たちに迎合し、甘やかす大人の誘惑に過ぎない。誰が流行させた言葉なのかは知らないが、まったく、人間と仕事を知らないというほかない。

君たちも「魚」と「釣り方」のどちらが欲しいかと聞かれたら、「釣り方」だと答えるはずだ。理由は、釣り方さえ学べば、どんな魚も熟練次第で釣ることができるからだ。

しかし、世の中の学生の大半は、「魚くれ」、「魚はどこだ」、「この魚は気に入らない」、「欲しい魚が見つからない」と言いながら、肝心の釣り方の練習は全くやらない。

亘 「やりたいこと」って、損な考え方ですね。

純一 そうだね。もちろん、それがしっかり定まって、実現のために努力している若者は素晴らしいけど、最初から「夢の完成品」を求める考え方じゃ、いつまでたってもスタートさえできない。

大事なのは、何でもいいから、一つ習慣を定めて、その仕事が好きになるまで地道にやってみることだ。自分でやりがいを作って、夢を育てていくことだ。「楽しいならやる」という横着な考えを捨てることだ。

例えば、このサークルでも…

「野菜の栽培」

「筋トレ」

「ブログ」

「メイク」

「歴史研究」…

なんかを好きで頑張ってる学生も多いけど、僕はいつも、「本気で学び、本気で遊べ」と言ってる。

何でも、本気でやれば面白くなるからだ。面白ければ本気になるんじゃない。

就活でも、「やる気になったらやる」なんて学生も入るけど、逆だね。「やったらやる気になる」んだ。

まず自分が目の前の現実に、人生に働きかけることだ。本気は決して疲れない。疲れるのはいつも、ウジウジとした中途半端だ。

麻衣 「本気は疲れない」…。いい言葉ですね。

純一 ま、僕はそう言いながらも、最近は年のせいか、張り切りすぎてちょっと疲れてるんだけどね。というのは冗談で、それはあくまで肉体的な疲れに過ぎない。

自分が心から同意した未来は、現実に「必然性」をもたらす。

そうしてその必然性に従い、現実に影響を与えていく過去を積み重ねることで、いつしか、自分が人生に、つまり未来に及ぼせる影響を実感し、確信していくんだ。それが「やりがい」というものだ。

自信とは、同意をもって過ごした過去の集積が、未来に与える展望にほかならない、そうは思わないか?

美里 あたし、感動してきちゃった。

純一 だから、「やりたいこと」なんて無駄なこと考えてるヒマがあったら、スポーツでも趣味でも遊びでもいいから、徹底的にやってみることだ。

そうして、物事を好きになる訓練を習慣化することだ。そうすれば、就活の悩みなんて、いつしか忘れてるよ。

亘 もっと早くここに来ていれば…。

純一 大丈夫。まだまだ間に合うよ。ここは夢に間に合うためのサークルだから。

学生たちは、テッド・ターナーの「過去が未来を作るのではなく、未来が過去を作る」という言葉が好きだ。

君が今日、ここに来ようと思ったときには、見学は「未来」だったけど、今はもう、過去になった。未来が過去に影響を与えたんだ。過去が未来に影響を与えるんじゃない。

亘 ぼ、僕、今まで、無意味なことばかり考えてました…。

麻衣 先輩、一緒に頑張りましょうよ。

美里 参ったね、

あたしたち三人とも、まさか入部しちゃうなんて。

亘 よろしくお願いします!

(純一、司会に入部を知らせる)

司会 おい、みんな!また新しい仲間が増えたぞ。温かく歓迎して、応援していこう!

学生たち はい!

司会 じゃあ、来週は合説があるから、みんなで行って情報を共有しよう!

麻衣 合説…来週なんですね。でも私、何も準備してない。

純一 まず、何も考えずに行ってみるといいよ。

亘 オレも一緒に行くから。

美里 じゃ、あたしも!モチベーション上がって、来週が楽しみだなぁ!

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◆第8話「ゴーセツ」

美里 おっす!待った?

麻衣 いや、さっき来たばかり。

絵里 ゴーセツ、ゴーセツ!憧れのJTBとJALの話を聞きに行くぞ~!

亘 へへ、オレ、今年も合説か。

麻衣 亘先輩、合説の回り方を教えてもらえますか?

亘 今日のもそうだけど…とにかく、大会場はやたら人が多いし、人気企業は人が多くて話も聞けないことがよくあるよ。

特に、女の子は小さいから、説明が見えないこともある。人気企業は待ってでもいいから、早めに前のほうに陣取っておくことだね。

美里 他には?

亘 合説はまだ、選考とは直接の関わりはないけど、人事担当者が来てる場合も多いから、気になることは積極的に質問してアピールすることだ。…って、オレも去年、相当質問しまくって、結局全部落ちたんだけどな…。

麻衣 じゃ、先輩もチャンス見つけましょう!

(四人、会場に入る)

美里 わぁ…すごい人、人、人。

絵里 JTBはあたしのモノよ。

美里 あ、リクルートも来てる!パソナもある!

亘 だって、これはリクルート主催の合説だからな。

麻衣 そっか。ということは、広告イベントなのね。ベイメッセのスペースを細切れにして仕入れて、それを求人を希望する企業に転売して…。

じゃ、このイベントは「商社」の仕組みね!

絵里 あんた、何、ゴチャゴチャ言ってんのよ?商社希望なの?

麻衣 私はどこと決めず、色々見て回るつもりよ。

美里 あ、日産だ!ちょっと話聞いてみようよ。あたし、マーチ好きなんだ。

美里 こんにちは!

人事 やあ、こんにちは。君たち、どこの学生さん?

美里 九州学院です。

人事 …というと、確か、地元福岡の大学だね。ようこそ。

(絵里 あたしらの学校、知らないの?)

美里 日産って、確か業界二位ですよね。

人事 ああ。最近はホンダさんに追いつかれそうだけどね。

麻衣 日産では、どんな人材を求めているんですか?

人事 そりゃ、一口には言えないけど、コミュニケーションができて、情熱があって、粘り強くチャレンジできる人材だね。

自動車の開発と販売は非常に時間がかかる。今新車を発売していても、工場では二年先の車を開発しているし、設計部門では五年後、十年後の車を企画しているんだ。

絵里 どうして車なのにコミュニケーションが必要なんですか?

人事 一台の車は三万点の部品からできてるんだよ。売れる車を作るためには、売り方を工夫しなきゃいけない。でも、デザインが悪いと売れない。安全性も大事な基準だし、環境対策にもお客様は敏感だよね?

それを成り立たせるためには、技術力がカギだ。でも、高性能の車を作ったからって、高かったら現金で買えないこともある。

だから、財務部や金融機関との打ち合わせも必要になってくるし、わが社の未来を信用してもらうには、約束を守る優秀な人材が必要だ。

また、広告宣伝も大事だし、特に戦略車はバージョンアップで利益を稼ぐためにも、ブランド構築が大事になる。

それに、燃費性向も注目されているし、税制にも詳しくなくちゃいけない。防犯対策も大切だ。最近の車は丸ごとITだから、家電メーカーとの提携も求められる。

一台の車が生まれ、届けられるには、最低でも、これだけの人たちと一緒に仕事を進めなきゃならないんだ。コミュニケーションなしにはやっていけないでしょ?

美里 車ってすごい!あたし、今まで乗ることしか考えていませんでした。

人事 そういう人の意見も大切だし、我々は若い女性に支持される車も届けたいんだけど、働くというのは、売る側に立つことだからね。まぁ、興味があったら受けてね。

麻衣 ありがとうございます。色々回って、また来たいと思います。

絵里 ちょ、ちょっと、麻衣!ほら、ほら…。

麻衣 何なの?

絵里 ほら、あそこ!JALよ、JAL!

亘 今年も女の子ばっかりだなぁ。

絵里 いけない!早く並ばなくちゃ!

(絵里、走り出す。三人、ついていく)

人事 …ですから、当社はホスピタリティと、安定した財務状態を両立させなければならないわけでありまして、例えCAであろうと、会社を代表しているという気概でやってもらわなければ、困るわけであります。

絵里 やってるやってる。

人事 ということで、ただ制服がかわいいからとか、希少価値が高いからといった理由で受けるなら、受けないで下さい。

CAは保安要員でもあり、万が一にはお客様の命を守る義務があります。客室で芸能人を探すような人は、当社のCAにはなれません。

絵里 何よ!あんた人事でしょ。

美里 かわいい子ばっかりね。

亘 みんな、制服に憧れてるんだよ。

麻衣 かわいいからね。JALの制服。

亘 男のオレには、ドトールに翼が付いたくらいにしか見えないけどなぁ。

絵里 ド、ドトールですって!

亘 そうさ。何が違うんだよ?喫茶店だって飛行機だって、お客様のために尽くすのは一緒じゃないか。接客に魅力を感じるなら、喫茶店も受けてみるといいぞ。

絵里 ちょっとぉ~、あたしはJALに行きたいんです、JALに。

美里 JALのCAって、履歴書を東京まで手渡しで持っていかないといけないらしいよ。

絵里 …ってことは?

美里 すごくお金がかかるってこと。

亘 ボロ儲けだね、航空会社。原油高で苦しいから、就活もビジネスのうちってことだ。

絵里 ビジネス!ビジネスだなんて!あたしは金のために働くなんて真っ平よ!利益のために働くなんてサイテーよ!

麻衣 まぁまぁ、会社は利益出さないとダメなんだから。JALも売上きついのよ。

美里 スカイマークだって、パイロットがいなくて大量欠航したでしょ?

絵里 だからあたしが頑張るの!あたしがお客さんを増やしてみせるんだから!

亘 じゃあ、広報部か営業部に行けば?そっちの方が集客担当だぞ。

絵里 もう…あんたたちは!

亘 おまえの話からは、「JALのCAじゃなきゃいけない理由」ってのが全く見えないな。

絵里 くっそぉ~!あんたたちが下らない話ばかりするから、説明会が終わったじゃない!

麻衣 また、一時間後にあるって書いてるよ。

美里 ねえ、パソナに行ってみない?

麻衣 そうね、行ってみましょう。

(四人、移動)

人事 …ワーキングプア。この言葉は皆さんもご存知でしょう。

わが派遣業界は、若年者の使い捨ての元凶のように言われていますが、我々に言わせれば、わが社ほど若年者、主婦、中高年にわたって幅広い活躍の場を提供してきた会社はないのです!

わが社を目指す方は、「オレが日本の雇用環境を変えてやる!」という志を持って受けてほしい。それが、創業者・南部からのメッセージです。

では、続いて質問タイムに移ります。自由に挙手して下さい。

学生1 あの~…有給休暇って、何日あるんですか?

人事 名前は?

学生1 あ、すみません。福岡学園大学の小林と申します。

人事 有給休暇って、君、やる気はあるのか?これから働くのに、最初から休日のことを聞いてくるなんて…。

まぁいい。ウチは、年間休日数は一二二日、有給は五日あります。ですが、入社三年以内は残業ばかりです。

学生2 はい!御社は業界何位ですか?

人事 ウチは…三位。最近、リクルートさんがスタッフサービスを買収したからね。しかし、わが社は東証一部に上場していることも知っておいて下さい。

学生3 はい!転勤はありますか?

人事 原則として男子社員は全国配属だけど、要望により、会社と打ち合わせて希望を出すこともできますよ。

亘 オレ、トイレ行って、出口で待っとくよ。

学生4 はい!離職率は何パーセントくらいですか?

人事 …離職率ねぇ。若手に限って言えば、三年以内に十五パーセントです。

(麻衣、美里、パソナの会場を去る。そして、会場を色々見て回る。)

麻衣 先輩、待たせてすみません。

亘 おう。終わったか?

麻衣 はい。今日はこれくらいで。雰囲気も掴めたし、就活が始まった、って実感が得られただけでもいい収穫になりました。

美里 何、あそこの人たち?煙たいわねぇ…。

学生1 おう、いい会社、あったか?

学生2 どっこの会社も、面白くないよなぁ。離職率高いし、有給少ないし。

学生3 業界一位は来てないのかよ、一位は?

学生1 てか、そろそろ、ビミョーに腹減ってねぇ?

学生2 おう。おまえ、豚骨と味噌、どっちにする?

学生3 今日は醤油ってカンジだけど、味噌にしといてやるよ。

学生2 じゃ、オレも味噌。決まりだな。

(学生たち、出て行く)

美里 何よ、ラーメン食べに来たの?

絵里 お待たせ~!JTBの人事の人の名刺もらっちゃった!

麻衣 あら、絵里。それはよかったね。

亘 なくさないようにしろよ。

美里 それにしても、合説がこんなに人が多いなんて。あたし、足が痛くなっちゃった。麻衣は行きたい会社、見つかった?

麻衣 うん、二、三社、面白そうな会社があったよ。TOTOと、JR九州と、りそな銀行。

亘 おまえらしく、手堅そうな会社ばっかりだな。

美里 ねえ、純一さんのところに行ってみようよ。合説のいいアドバイスがあるかもしれないよ。あたし、パソナの説明会、不満だったの。変な質問ばっかりだったし。

麻衣 そうね。じゃ、電話してみよう。

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