学生1 あの…僕たちは、就職の相談に来たんですけど。
学生2 もしかして、今日は今日で、別の予定の日だったんでしょうか?
純一 これが就職の話だけど。
学生1 僕、今日あまり時間ないんで、よかったら、広告代理店のエントリーシート見てもらえないかと思って来たんですけど…。
純一 別に見てあげてもいいよ。
学生1 じゃ、お願いします。
(純一、ESを受け取る)
純一 …「前例にとらわれない発想が私の武器」で、「表現の限界」に挑戦したくて、「ゆくゆくは世界を目指したい」のが夢か。
学生1 は、はい。
純一 君はいつも、こういう風に書いてきた?
学生1 えっと、今回のはかなり勇気を出して強気で攻めてみました。
純一 どこをどう強気で書いた?どこがどう、前例にとらわれていないんだ?
学生1 …。
純一 もしかして、このエントリーシートが君の「表現の限界」じゃないのか?
学生1 そうかもしれません…。
純一 まぁ、いい。(全員の方を向いて)君たちも今日はよく聞いてほしい。今日は就活の基本を話す。
(麻衣 就活の基本?)
純一 広告代理店の商品は何か?分かる人?
学生 チラシとかCMです。
純一 じゃあ、不動産会社の商品が何か分かる人?
学生 土地や建物です。
純一 違う。
(麻衣、美里 えっ?)
純一 確かに商材は媒体や土地、建物だけど、その形式を採る前に、会計的に見ることが大事だ。
君、(学生1を向いて)棚卸資産と当座資産の違いは?
学生1 すみません、忘れました。
純一 当座資産というのは、現金、預金、売掛金、手形などのことで、換金のためには「時間の経過」か「所定の手続き」が必要な財産のことだ。
君、(学生2を向いて)売掛金って何だ?
学生2 えっと…確か、商品は売ったけど、代金はまだもらってない時の…。
純一 そう。売掛金とは「売ったけどまだもらっていないお金」、すなわち「所定の期日が来れば換金される資産」だ。つまり、「時間が立てば現金に変わる」ものだね。
このことから、当座資産とは、「既に売れている財産」ということができる。
学生2 はい。
純一 じゃあ、棚卸資産とはどんな資産だ?
学生1 ってことは…「これから売る財産」!…でしょうか?
純一 そう。もっと正確に言えば、「換金のために販売行為が必要な財産」だ。
例えば、この喫茶店にはチーズケーキがある。あのケーキは、ここのお店を見れば厨房がないことからも分かるように、どこかの製菓会社から仕入れている。
じゃあ、ここで質問だ。あのチーズケーキは、「時間がたてば」自動的にお金に変わるか?
学生たち 変わりません。
純一 そうだ。在庫は時間が立てば品質が劣化し、価値が下がる。だから、ここ(棚卸資産欄を指差して)に入ったら、できるだけ早く卒業してもらわないと困る、ということだ。
「入った時より、出る時の方が成長している状態」で、ね。
学生1 …なんだか、僕ら学生みたいですね。成長せずに滞在していたら、留年するのと同じだと思いました。
純一 そう。いいところに気が付いたね。
つまり、棚卸資産とは、お金を増やすためにお客さんとコミュニケーションを行なう道具、つまり「商品が出番を待って待機している控え室」だと考えればいい。
(麻衣 …なんて鮮やかな説明なのかしら)
純一 この棚卸資産、つまり在庫を「製造」、「加工」の段階から形成する業態を「メーカー」と呼び、「仕入れ」、つまり完成品の購入によって形成する業態を「商社」と呼んでいる。
だから、世の中にはメーカーと商社しか存在しないんだ。販売業、サービス業も商社の一部だと考えていい。会計的に見れば、世の中には二つの業界しかないということだ。
そして、完成品や原材料を仕入れるためのお金は、もちろん「当座資産」から捻出する。
例えば、50円でチーズケーキを仕入れて、100円で売れば、いくらの利益が出る?
学生2 50円です。
純一 そう。つまり、50円の当座資産を投資して、50円相当の棚卸資産を購入し、100円の価格を設定して販売したら、50円余分に当座資産が返ってきた、ということができるね。
学生2 なるほど…。
純一 ならば、良い商売とは、「投資以上の回収を生む営み」、すなわち「お金を使ったら、お金が増えた」というプロセスを実現することにある。
学生1 お金を使ったらお金が増える…。
純一 広告代理店は、より高く販売できるであろう時間帯や空間を見つけて安く購入し、デザインや音声で表現して付加価値を高め、転売している点で「商社」だ。
不動産会社は、広告代理店がやっていることを土地と建物でやっているだけの「商社」だ。
君たちは雑誌、テレビ、ラジオ、ビル、マンション、商業施設などと「モノ」で見るから、全部が別の業界、別の仕事に見えるだろうけど、全ての商品は基本的に、様々な形態を採る以前に、まず「棚卸資産」と考えていい。
そして、棚卸資産が入居時より成長して還元されるためには、「お客様の問題を解決して喜びに変える」ことが必要なんだ。
世の中で存続、発展している会社は全て、お客様がその会社の棚卸資産の価格を認め、存続を承認した会社だと考えればよい。
「お客様が求める在庫」を実現できれば、現金を頂いて存続することができる。
だから、全ての仕事は「問題解決」なんだ。
(麻衣 問題解決?)
学生2 社長さんって、そう考えているんですね。
純一 そうだ。君たちは「ほっともっと」と聞くと、「なんだ、弁当屋か」と思うだろう。
確かに、「モノ」で見れば弁当屋さんだ。だけど、ほっともっとのお客さんはどういう人が多い?
ある学生 えっと…自炊が面倒な人。
別の学生 あと、時間がない人とか、外食は高いと思う人です。
純一 そうだね。
だから、自炊する余裕がないほど疲れたサラリーマンや、時間がないOLや、お金を節約したい学生は、もしそんな問題を解決して、手軽に、速く、安く、そしておいしく弁当を提供してくれるお店があれば、買いに行くだろう?
学生1 行きます。
純一 ほっともっとは、外見は弁当屋さんだけど、創業者は誰にも負けないくらい、弁当が好きで好きでたまらなかったのか?だったら自分で食べればいいよね。
でも、創業者はきっと、若い人たちの食習慣が乱れ、栄養が偏り、添加物が入った食品ばかり食べていたら、この国の将来はどうなるのか、と考えたとは思わないか?
世の中の全てのお金は、「問題が解決される場所」に流れ込んでいるんだ。
(麻衣 創業者の思い…)
純一 だから、創業者はこの国の未来を支えるであろう、若くて忙しく、そして経済的余裕がない人たちのために、「速くて安くて便利でおいしい」という食事を提供すれば、社会貢献ができるという「コト」に気付いたんだ。
純一 そして、この「コト」こそ、君たちが共有すべき志望動機だ。
モノはコトを表現する手段に過ぎない。モノはコトに従属する。
君たちは弁当に興味がなくても、若い人たちの時間とお金を節約し、健康増進に役立ちたいという思いには、十分共感できるだろ?
学生1 できます。てか、ほっともっとってすごい…。いつも食べることしか考えてなかった。
純一 君たちは「洗濯機」には、別に興味もないだろう。
でも、戦後、働き手を失った子沢山の母親が、洗濯という重労働で苦しんでいたのを見て、なんとか家事を減らして、空いた時間を子育てや休息に充ててほしいと願ったメーカーの思いには、感動できるだろう?
学生2 洗濯機って、すごいんですね!
純一 そうだ。「モノ」に囚われる視点を忘れ、「コト」に着眼すると、全ての仕事の魅力が見えてくる。
この思い、つまり「わが社は社会にこういうコトを提供したい」という気持ちが、その会社独自の分野で商品やサービスに変身して、提供されているんだ。
そこにこそ、「社長の創業動機」、すなわち「全社員が従い、守り、受け継いでいく最強不変の志望動機」があるということになる。
だから、「弁当を」売るんじゃない。「弁当で」売るんだ。「広告を」売るんじゃない。「広告で」売るんだ。
じゃあ、何を売るのか?「相手の可能性」だ。これが本当の商品だ。
そして、君たち学生がこの就職活動において掴み、内定後も保ち続けるものこそ、この本質的な志望動機なんだ。モノを志望動機にした時から、迷いと失敗が始まる。
その証拠に、受からない学生は「どんな自己PRを言えば良いか」、「どんな志望動機を言えば良いか」ばかり考えている。
その題材を使って、相手や自分の可能性を表現しようとは思わない。あるのはただ、「何を伝えればいいか?」という主観的な焦りだけで、「どう伝えればいいか?」とは考えない。
できない営業マンもこれと同じで、「営業とは、モノ、すなわち商品を売る仕事だ」と思ってる。だからきつい。だからできない。だからすぐやめる。
しかし、「営業」という言葉の定義が違うなら、きつくて、結果が出なくて当然だ。
仕事が楽しくない、就活が楽しくないなんて言う若者は、ただの「怠け者」ということだ。楽しくない就活は間違いだ。
(学生たち、真剣に見入る)
純一 どうだ。社長の視点に立つと、ワクワクしてこないか?そんな志望動機を持って働けたら、どれだけ仕事が楽しいと思う?それ以前に、就活も楽しくなるね。
(麻衣 なんて分かりやすいのかしら…。こんな話、就職課じゃ絶対に聞けない)
純一 『孫子』第四章には、「勝兵は先づ勝ちて而る後に戦い、敗兵は先づ戦いて而る後に勝ちを求む」とある。
「勝者はまず勝って、それから戦うが、敗者はまず戦って、それから勝ちを求める」ということだ。この名言を会計的に翻訳してみよう。
(麻衣、美里、見入る)
「できる学生は、まず内定して而る後に就活し、できない学生は、まず就活して而る後に内定を求む」だな。
「できる学生は、まず卒業して而る後に入学し、できない学生は、先づ入学して而る後に卒業を求む」だな。
「できる営業マンは、まず契約して而る後に商談し、できない営業マンは、まず商談して而る後に契約を求む」だな。
「できる社長は、まず売れて而る後に仕入れ、できない社長は、まず仕入れて而る後に売上を求む」だな。
つまり、勝つ人は最初から既に勝っている、ということだ。先に勝って、後から戦うんだ。
ならば…君たちもまず、今、心の中で「最高の未来」に内定すべきだとは思わないか?
インプットがアウトプットを作るんじゃない。どんなアウトプットを想定しているかで、今のインプットが決まるんだ。就活は会計と同じだ。
情報収集をすれば有利になるんじゃない。自己分析を頑張れば有利になるんじゃない。
生き生きと未来を描き、心の底から「仕事って楽しい!」と思えてこそ、最高の情報に出会え、最高の自分が見えてくるようになるんだ。
君たちの心の中には、相手が高値を出して買いたい「最高の未来」という商品があるか?そんな未来像から導かれた努力を、今やっているか?
もしかして、「とりあえず、やってみなきゃね」とか、「将来のことなんて、内定してからでいいっしょ」なんて考えてないか?
だったら、受からなくて当然だな。そんな面接は、「落としてください!」と言いに行ってるだけだ。つまり、「まず落ちて、而る後に面接せよ」だ。
学生1、2 …僕たち、間違ってました。まったく逆のことをやってました。今言われた「できない学生」は、全部僕らに当てはまってて、耳が痛かったです。
純一 それを認めたところからチャンスが生まれる。一緒に頑張ろうじゃないか。これから毎週来るといいよ。今日のような話は、基礎の基礎に過ぎないからね。
(麻衣 これで基礎の基礎だなんて!)
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