作者あとがき
「出家とその弟子」や「ファウスト」、シェークスピアには、高校時代から親しんできた。
評論や資料を読み解くのが好きな私であるが、戯曲の持つ表現の豊かさには、いつも惹かれてきた。
しかし、真の表現の本質は、表現形態ではなく素材自体にある。
ここ五年、私は仕事の傍ら、大学生のサークルの顧問という、一風変わった役割も引き受けてきた。
ここには青年期に味わう様々な悩みや成長が存在していた。戯曲にして表現するにふさわしい題材が、たくさんあった。
だから、就職活動を題材に、現代の若者が何を見つめ、どう成長し、どう助け合っていくかを、五年の経験から再現してみたのが「夢への内定」だ。
表現の直接の動機は以上のようなものだが、私には他の問題意識もあった。
私は早く働き始めたため、大卒の人々の早期離職がいつも不思議だった。多くの社会人の低能率で非生産的な働き方が不思議だった。
私が実社会で直面した多くの社会人の思考構造は、ほとんどが「社会主義」の思想だった。
この時代錯誤な珍現象は、何に由来するのか?
サークル顧問を引き受けた最初の年、学生と話していて、彼らは素朴な社会主義者だと感じた。
そして、就職活動はその事実を示してくれた。
大半の若者には、職業観や会計センス、つまり内なる合理性と外側の合理性のバランスを取っていく指標が、存在しないのである。
中でも、多くの大学や業者が行なう「就職ガイダンス」なるイベントの本質は、単なる「マルクス主義研修」に過ぎなかった。
時事用語や専門用語を使って、さも、もっともらしい説明をしている大人も多いが、要するに、内容は社会主義的職業観の注入である。
これは、現代日本のコメディだと言えるだろう。
自分が何を教えているのか分からない職員や社員も、驚くほど多いようである。
人間性不在の職業教育や就職指導から生み出されるのは、「過去からの難民」ばかりである。
登場人物については、麻衣、美里、森中、竹川、純一の四人が、実在の人物である。
亘、駒田、絵里、マスターは、未就職四年生、勘違い職員、ミーハー学生、相談相手になってくれる大人のシンボル的な存在で、実在の人物ではない。
就職活動で特に多く見かける人々の言動を、ある人物の姿をとることで、表現してみただけだ。
登場する会社や団体は、実在のものとは一切関係ない。選考や説明会の内容も、実際のものではなく、象徴的な事柄のみを表現した。
読者の方々は、誰に共感しただろうか。誰にでも、部分的に共感できるところがあったのではないだろうか。
そういうふうに作ってみたつもりだ。
完結後、数人の学生から「麻衣や美里、絵里のその後の選考は、どうなったのか?」と聞かれたが、それは敢えて書かなかった。
書けば、その通りに真似する学生が出てこないとも限らないからだ。
実際、三、四年前に私が配信していたメルマガ「内定への一言」は、最終面接で引用、使用する学生が全国あちこちで表れた。
だから、今回は自分で学んでほしいと思う。本作品は、教科書ではなくあくまで一つの文学作品に過ぎない。
ただ、その後の麻衣と美里が気になる人もいるだろう。
ならば、直接会ってみてはいかがだろうか。
麻衣(舞)と話したい人は、以下の「mai place」にアクセスしてみるといいだろう。
http://maiplacehp.web.fc2.com/
美里と話したい人は、以下の「イッツフォーマル」にアクセスしてみるといいだろう。
ちなみに、「起業・取材サークルRUN」というのは、「企業取材サークルFUN」のことである。
本作品が、多くの学生に、将来を描く上での何らかのきっかけになれば幸いである。
2008.7.7
小島尚貴
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